2025年01月号 第116話 私の経歴

大学進学から約20年ぶりに実家のある草津市に帰省し、昨年の6月から、これまでの皮膚科と内科に加え、泌尿器科を開設させていただきました。
草津小学校から、近江兄弟社中学、高校を経て金沢医科大学を卒業しました。同大学の泌尿器科へ入局し、ほとんどの時間を大学病院で過ごしました。多くの開腹手術や腎移植など外科的な手術も多く経験いたしましたが、専門は尿路結石症で基礎研究に取り組み、退職前の大きな仕事は尿路結石症診療ガイドラインの事務局を担いました。尿路結石症について、少しばかりお話ししたいと思います。

尿路結石症の約95%は上部尿路結石(腎結石、尿管結石)が占め、その成分からカルシウム結石(主にシュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石)、非カルシウム結石(尿酸結石、尿路感染に伴うリン酸マグネシウムアンモニウム結石、遺伝性結石としてシスチン結石、2,8-dihydroxyadenine結石、キサンチン結石)、薬剤性結石に分けられますが、約80%はカルシウム結石でなかでもシュウ酸カルシウム結石が最も多く、一般的に尿路結石というとシュウ酸カルシウム結石を示します。尿路結石の生成機序は多段階のステップをとると考えられており、尿中に結晶が析出し凝集。結石原基となり、組織障害や炎症などにより生じた有機物を伴って結石化(固化)します。その一部は結晶-細胞相互作用(crystal-cell interaction)という作用により尿細管上皮細胞表面への付着やエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれRandall’s plaqueと呼ばれるリン酸カルシウム結晶と有機マトリックスから構成される石灰化物質が生成。これが腎乳頭表面に露出すると、それを核として過飽和尿によって生じたシュウ酸カルシウム結晶が付着し成長、凝集し結石形成へと至る形成機序が考えられています。まだまだその生成機序には謎も多く、5年で5割が再発し高い再発率にも関わらず、その予防法が確立されるには程遠い現状です。

実際にカルシウム結石の再発予防として保険収載されている薬剤は酸化マグネシウムのみで、その効果は非常に限定的で日臨床で使用されている例はほぼないと思います。実際に、尿路結石の治療に関わっていると、その醍醐味は治療(手術)です。手術デバイスの進歩により、経尿道的、経皮的、またその組み合わせにより低侵襲で残石のない手術が可能となってきました。医療者も患者さんも治療(手術)が終わり排石されてしまうとその原因追及や再発予防にまで手が回らないのが現状ではないでしょうか。

泌尿器科を開設後、半年の間に特発性副甲状腺機能亢進症の治療に伴う医原性の多発するカルシウム結石や、尿細管性アシドーシスによる患者さんに遭遇しました。結石治療はできなくても尿路結石発症の原因探索や再発予防に開業医でも役に立てることがいる実感した次第です。勤務医時代には満足にとれなかった家族との時間を楽しみつつ、町の開業医としての仕事にも戸惑いながら、20年前とは様変わりした草津に根を下ろして地域医療に貢献したいと考えております。近隣の先生方や皆様に今後のご指導をお願いする次第です。よろしくお願い申し上げます。

井上慎也(井上医院)