2023年07月号 第98話 ディフェンス(Defense)

昨年新しく滋賀医大の向かいに完成したダイハツアリーナに、バスケットボール(バスケ)の試合を見に行きました。地元の滋賀レイクスの試合とあって駐車場は満車、会場は大いに盛り上がっていました。バスケは攻守が激しく入れ替わるスポーツで、アメリカでは野球より人気があります。どんなスポーツにも試合状況に応じたおきまりの応援方法がありますが、バスケでは相手ボールの際に「ディーフェーンスッ、ディーフェーンスッ」と声援するのが定番の一つです。これを久々に聞いて、15年前アメリカ留学中に観戦したNBAの試合でもそうだったなー、とアメリカでの思い出が呼び起こされるきっかけになってしまいました。

留学中に苦手だったことの一つが、プレゼンテーションでした。私のことをよく知る方は「そんなわけないだろう」と仰るかもしれませんが本当です。英語が拙いために気後れしたのも確かですが、より根本的な原因は質問や批判に対するディフェンス力の低さでした。競争社会のアメリカでは「勝ち取る力」が求められます。綺麗なスライド、目を惹くようなタイトル、美辞麗句などは発表前に準備ができますが、質疑応答はそうはいきません。意地悪な質問もたくさん受けました。知識を総動員して論理的破綻なく、怒らず笑顔で(心の中は笑いギレですが。。。)説明しなければなりません。ちなみに学位審査会のことを「thesis defense」というのをご存じでしょうか?文字通りフルボッコ状態から自らの学位を守りきる会です。アメリカでは平気で落とされてしまう(Natureの筆頭著者でも)ので、根拠を示して推論や反論を重ねて必死にディフェンスします。ディフェンスに成功すると、その後はパーティでどんちゃん騒ぎです。私はこの時のビールとピザを目当てに毎回出席していましたが、発表者がボコボコにされる姿は何回見ても身がつまされる思いでした。しかし学問だけでなくメンタルの強さや思考の柔軟性なども含めて評価されるからこそ、海外ではPh.D.取得者が一定の評価を得ることができるのだと得心することもできました。

今年1月に開業してはや半年。皆様から頂戴した多大なご支援のおかげで必死に駆け抜けてくることができました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。
一方で、大学に積み残した仕事である2名の大学院生の学位論文がいよいよ佳境に入っています。英語論文を書いた方はご理解いただけると思うのですが、査読者からの質問にどう答えるか、論文アクセプトまでの道程の中で一番苦しいところに差しかかっています。私のディフェンス力がまだ通用するとよいのですが。。。

河原 真大(草津かわはらクリニック)