2023年04月号 第95話 水泳を始めて

南草津に開業して早くも2年半が経過しました。
コロナ禍での開業でしたので、開業当初から診療業務だけでなく感染対策にも気を遣う毎日でした。しかし、大変なのはなにも私だけでなく世間のみなさまも同様で、まさにコロナウイルスの流行と共に歩んできたと実感しております。

コロナ禍の運動器への影響として整形外科医として思うことは、高齢の方の外出頻度が減ったり、学生さんの部活動が制限されたりと、国民全体が運動不足に陥ってしまったことです。高齢の方の外出頻度が減って歩きにくくなったという話はよく聞きましたし、自粛から部活動が再開した頃には、若いはずの学生さんでも捻挫のみならず、肉離れでの受診が急増しました。

そんな中、はて自分はどうなのかと考えるようになりました。学生の頃は運動部に所属していましたが、整形外科医となってからは多忙であるという言い訳をしつつ、運動をほとんどしていませんでした。実を申しますと、開業後徐々に腰痛が悪化してきていました。勤務医時代は運動こそしていないものの、ほぼ毎日のように手術の執刀や助手をしていたため、立って活動する時間も多くありました。しかし、開業後はほぼ座っている時間ばかりです。座っている状態では、股関節前方の腸腰筋や大腿四頭筋が収縮した状態で、長時間となると起立後も伸びが悪くなり、いわゆる反り腰となって腰痛の原因となります。また同時に徐々に体力の衰えも感じるようになりました。

整形外科医として腰痛を抱えながら診療を行う矛盾を自覚し、一念発起してジムに通って水泳を始めることにしました。やっと感染者数が減ってきたことも決断に至る要因ではありました。泳いでまず実感したことは、もちろんすぐに息があがることもですが、それ以上にクロールで肩が挙がらないということです。すぐに疲労感を自覚し、回せなくなります。まさか、そんなはずはないと思いますが、回りません。25mプールを往復時には、おそらく溺れているように見えたのではないでしょうか。燦々たる気持ちになりますが、すぐに帰るわけにはいかず、水中ウォーキングと交互に行い、なんとか小一時間過ごして帰宅しました。最も精神的に厳しかったのが2回目です。何かと理由をつけて休もうとしている自分がいました。そのような時には意志と関係なく行ってしまうことです。行ってしまうと、やるしかありません。大股で股関節を進展させながら水中ウォーキングを行うと股関節がストレッチされ、腰まで伸びる感覚があります。2回目をなんとか乗り越えると、普段の腰痛が改善している実感がありました。数回行くと肩も回り泳げる距離も伸びてきました。

慢性疼痛や骨折等外傷後の治療・リハビリテーションで大切なことは、改善していることを自分自身で実感することです。もちろん改善しにくい場合もありますが、その中でもどの方法が自覚症状をより改善させてくれるか、考えて実行することで治療効果は違ってくると思います。また、運動療法の効果は早期には実感しにくいこともありますが、継続することが大切です。よく患者さんに伝えることを自分自身に言い聞かせながら、まだ継続出来ています。初期を乗り越えたことで効果を実感し、楽しみも感じてきました。

コロナウイルス流行による閉塞感が日本全体を覆っていましたが、今後その閉塞感からどのように脱却するか、YouTubeを見るだけではなく、まずは自分自身で体験して実感することが大切なのではないかと思います。
はたして水泳を継続することが出来るか否か、私自身今後が楽しみです。

山田 学(山田整形外科クリニック)