2023年02月号 第93話 『食』は日本に有り!

通院中のご高齢の患者さんが、身内に不幸があったとかで遠くの実家に帰郷するという。聞けば鹿児島の市街地からかなり離れた過疎地域で、相当さびれた所らしい。その話を聞いて、私が育った田舎を思い出した。標高1000mに届くか届かないかの山深いところにあり、クマやイノシシが人よりも多いような限界集落だ。従兄弟たちが通っていた小学校はとっくに廃校になっており、少子化どころの騒ぎでは無い。先祖代々受け継いできた山林の奥深いところに泉が湧いており、そこから引き込んだ水は真夏でも手が切れるような冷たさだったので、スイカやビールを冷やしていた光景が懐かしい。周辺には所有者不明の山林が数多くあり、土地の境界もはっきりしないという。

昨年7月、『2022年度経済財政白書』が公表された。「経済財政の動向と課題」「労働力の確保・質の向上に向けた課題」「成長力拡大に向けた投資の課題」の3章からなるもので、誰にでも分かるような当たり前のことをつらつらと書いてあるのだが、この中で最も大事なことは「労働力の確保」ではないだろうか。遡ってみると、8年前に公表された『2014年度経済財政白書』には、労働力人口が1998年をピークに減少を続け、15年間で200万人以上が減ったとあり、今後、高齢者や女性の雇用が進まないと、あと15年程で更に900万人減少すると算出していた。令和に入ってからの具体的数字は把握していないが、労働力が大幅に減少し続ければ国民生産も大幅に減り続け、国力も相当削がれることは論を待たない。また、慢性的な人手不足で潰れたり規模を縮小せざるを得ない企業がたくさん出てくるはずで、事実、既に大手外食チェーン店で24時間営業を断念した所が幾つも出てきている。海外から労働者としての移民を大量に受け入れない限り、ロボットやAIに頼れるのも業種が限られるため、このままでは様々な産業はショートしてしまう。零細企業には超高齢化の波が押し寄せ、やがて退廃していくかも知れない。企業のみならず、第一次産業や様々な伝統産業は猛烈な後継者不足で瀕死の重症状態に陥っている。少子高齢化の波は、もはや高齢者や女性の雇用促進どころの騒ぎでは済まないところまで来ているのだ。歴代の内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)はこれまで一体何をしてきた?現首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と明言したが、これも怪しいものである。

我が国には生活保護受給者数が200万人以上もいるらしい。これは由々しき数で、人口がこの数にも満たない都道府県が過半数なのだ。特に、大阪のある地区では4人に一人が生活保護受給者だというから開いた口が塞がらない。今のような制度では国が破綻するのも時間の問題だ。受給者の中で普通に働ける人は、一体どの位いるのだろう?もしかして、就労可能な人々にタダで金をあげていることが多いのではないか?このような人々に雇用を促し就労させることが国家の仕事なのではないのだろうか?不法入国者や反日国家の外国籍の者にさえも支給しているような、現行の生活保護制度は即刻停止すべきではないか?!これまで良く言われてきたことだが、現役時代、一生懸命働いて税金を納めてきて、歳を取って仕方なく年金暮らしになった方々より生保受給者の手取り額の方が多い場合があるというのでは絶対におかしい。働きたくとも就労できない本当に保護するべき人々には、例えば障害者年金、独居老人見舞金、就労困難者補助制度、等を創設・充実させて個々に保護を手厚くし、現行のように、保護する必要の無い者まで同じように扱っている制度は即刻廃止して頂きたい。基本は、「働かざる者、喰うべからず」であり、そうしなければ貴重な労働力は益々減少の一途となるであろう。

1971年から実施されてきた「減反政策」は、昨年に非業の最期を遂げた元総理の英断で、2018年、半世紀に及ぶ歴史を経て中止された。ようやく…、である。そもそも、田んぼが有るのに米が余っているからと、米を作らなかったら金を出すというような政策はトコトン馬鹿野郎としか言いようが無い。そこで、荒唐無稽かも知れないが、雇用創出の秘策が有る。過疎地や限界集落で土地を遊ばせている所や、高齢化のために細々やっている農地は、希望があれば全て国が買い取り、その土地を大規模農場を開発できる企業に安く貸し付けるのである。国内で食料の自給自足を目指せば雇用は相当数必要になる筈で、加工工場や子供を預けることのできるインフラも同時に併設すれば、限界集落にも活気が戻り、得られた収益からの税金で資金はすぐに回収できる。なるべく地産地消に努めるが、収穫したものは世界中でニーズがあるため、余剰は輸出すればかなりの金額になるはずだ。何せ、我が国の米、野菜、果物などは世界最高水準の品質を誇るのだ。例えば、スイカや桃、梨、ブドウ、メロンなどは、特にアラブ諸国では高額で飛ぶように売れるらしいし、温州ミカンやイチゴは諸外国の人たちに「奇跡だ!」と言わしめるほど甘くて美味しいのである。漁業もしかりで、獲れた魚はあらゆる国々で重宝されるし、近大を筆頭に養殖の技術も世界最高峰だ。中でも最近、ベンチャー企業が「陸上養殖」と称して、安心で安全な魚介類を海ではなく陸地で育てて高級レストランなどに卸しているくらいだ。畜産業も負けてはいない。恐らくブランド牛や豚、鶏は、その味と品質で他国の追随を許さないレベルに達していると思う。これからは第一次産業の時代なのだ。資源を持たざる国としては、せめて食料くらいは自給自足を目指しても良いのではないか?IT産業や株なんかで儲けた金で豪遊していた者より、これからは、汗水垂らして働いた者が裕福になると思いたいし、そうなって頂きたいと真剣に願っている。

今や世界中が和食ブームである。狭い国で周囲を海で囲まれているが故、寿司をはじめとする生の食材が食べられる文化が発達したのは我が国の強みである。冷凍の保存方法やフリーズドライの技術も一級品だし、豆腐や味噌などの加工品、日本酒や焼酎も世界で勝負できる。お菓子やラーメンも圧倒的に高水準だ。弁当の文化も世界的になってきたし、箸や食器のバリエーションの多さは群を抜く。中華料理で使用するフカヒレは気仙沼産が最高だ。中華で使用する蒸籠(せいろ)は金具を使わない日本製がダントツに素晴らしく、本場の中国からも買い付けに来るほどらしいし、春節にはカニやフグを食べに、大阪の黒門市場へわざわざ海をわたって大勢やってくるくらいだ。「食は広州に有り」というのは既に過去のこと。既に「食は日本に有り」の時代であることは、世界中の人々がとっくに気付いているのである。

今こそ捲土重来で、少子高齢化こそ空前のチャンスかも知れない。『食』で雇用を創出し『クール・ジャパン』を世界に示せば良いではないか。国が豊かになれば、自ずと少子化も改善されるのではないだろうか。人は喰わないと必ず死ぬ。『食』を制する者は世界を制するというのは、あながち嘘ではない。『食』は、少子高齢化の切り札にならないだろうか…?あの廃校になった田舎の小学校で、いつか再び子供たちの賑やかな声を聞いてみたいものである。

草津栗東医師会 理事 坂井 伸好(おうみクリニック)