2022年12月号 第91話 漢方すごい
【はじめに】
師走に入り、急に寒さが深まり、冬の訪れをひしひしと感じる今日この頃ですが、この季節になると、風邪が猛威を振るうようになります。なじみ深い疾患ですが、「たかが風邪」と看過できない事情があります。これまで私は循環器内科医として、高血圧や不整脈、心不全などの循環器疾患を診て参りましたが、昨今の高齢者の増加に伴い、心不全が激増しているからです。
【漢方は呪術?】
私が本格的に「漢方はすごい」と感じたのは、循環器内科医として病院勤務していた時にさかのぼります。
冬になると風邪がきっかけで心不全が悪化し、1シーズンに何度も入退院を繰り返す高齢者を数多く診てきました。高齢者はひとたび入院すると、急激に筋力低下が進行して寝たきりになり、さらに心不全が悪化するという負のサイクルに陥るリスクが非常に高いので、何とかならないものかと悩んでいました。
そんな時に、勉強会で「気虚」すなわち機能低下やエネルギー低下の時に使うと教わった補中益気湯を「効いたらラッキー」と思いながら、半信半疑で処方を始めました。
すると、なんと、内服できた患者さんたちは、あまり風邪をひかなくなり、ほとんど入院することがなくなったではありませんか!これは驚きでした。何千年もの時を経て残ってきたものにはそれだけの価値があるのだと、改めて認識させられのでした。
それ以後、私にとって、難しい漢字の漢方薬の名前は呪術の呪文(恥ずかしながらそんな認識だったのです)ではなくなりました。
【五苓散恐るべし】
私の専門領域の循環器学会でも、最近は漢方セッションができるほど、漢方に注目が集まっています。特に心不全領域については、五苓散などは心不全標準治療に追加することで、利尿剤を減量できたりするので、面白い薬だと思っています。
五苓散といえば、救急外来では、急性アルコール中毒の泥酔状態の人に点滴をしながら、シリンジで少しずつお湯に溶かした五苓散をシリンジで少しずつ内服させると、1-2時間ですっきり覚醒して帰宅していました。五苓散恐るべしです。
今ではコロナ禍ですっかりご無沙汰になっている漢方医の飲み会では、会が始まる前に五苓散と黄連解毒湯が配られていましたが。
【心身一如の漢方】
早いもので、今年で開業3年目になりました。プライマリー医としては駆け出しですが、毎日患者さんたちを診ていて、人間の持っている力というのは素晴らしいと思うことが度々あります。
今はコロナ禍で、心身ともに調子を崩して来院される方が増えています。漢方には「心身一如」という考え方があり、心と体を一体としてとらえます。これにより、ひとりひとりにオーダーメイドの治療が可能となります。元々ひとりひとりの持つ力というのは限りなく、今はやりの患者さん自身の「レジリエンス(回復力)」を引き出すのが、私たちプライマリー医、漢方に託された役割ではないかと考えています。
これからもたくさんのことを患者さんたちに教えてもらいながら、日々精進したいと思います。
戸成 智子(さとこ内科クリニック)