2022年09月号 第88話 ドクターカフェについて

私は昨年より、草津市の古民家を改築したコワーキングスペースである『みんなのハナレ』という場所で「ドクターカフェ」という取り組みをしてきました。今回は私が数年前からやりたいと考えていた「ドクターカフェ」について書きたいと思います。

【外来診療をして気づいたこと】

私は普段は透析診療の傍で、腎臓内科医として外来診療も行なっていますが、一括りに腎臓内科といっても、皆さんご存知のように腎臓だけの病気の患者さんはほとんどいません。高血圧や糖尿病や動脈硬化など、様々な病気を合併している患者さんがほとんどです。なんだったら専門家でありながら総合的に患者さんを診られるのが魅力的だと思い、腎臓内科を選んだ節があります。

そんな診療の中で、もっと早期に、かつこまめに病院に通っていたら癌などの病気が見つけられていた患者さんや、早期発見治療で病気が治ったかもしれない患者さんが少なからずいます。おこがましい話かもしれませんが、10年前や20年前にその人に出会っていたら、救急に運ばれずに済んだのではないかという思いをすることもたくさんありました。

【予防医学における今後の課題】

病気になり急変して救急車で運ばれることを、本人の自己責任で片付けるのは簡単だと思いますが、病院嫌いの人達の病気をいかに見つけ出すか、がこれからの医療における課題だと考えるようになりました(名付けて,”おせっか医”)。

市民の健康意識を高める活動として、ショッピングモールなどで健康相談イベントなどが開催されることがあります。私自身も参加経験があり、道行く人達に「お気軽にご相談下さい」と呼びかけたりしますが、ブースのテーブルに座っている白衣を着たドクターの前に足を運んだり、そこで気軽に相談するのは難しいのかなと思ったりします。そのような場所で相談に向かえる人はまだいい方だと思うし、筋金入りの病院嫌いの人は見向きもしない現状があるのではないかと思います。

こまでいっても、白衣ドクターの前では”医師患者関係”という大きな壁が崩せないような気がして、そのような垣根が病院嫌いの患者さんを作り出しているような気にさえなります。もちろん健康イベントのような草の根レベルの活動はかなりの効果があり素晴らしい活動だとは思いますが、こちらがどれ程頑張っても病院嫌いな患者さんの一歩を進めるのが難しい状況は変わらないのではないかと思います。

ドクターカフェ

【ドクターカフェ】

そこで思いついたのが、「もう白衣を脱いで,フランクに医療相談できる場を作っちゃおう」ということです。いわゆる「健康サロン」みたいな地域のお年寄りの交流の場はありますが、医者がそこにいて気軽に相談できる場所はなかなかありませんし、そんなふらっといける喫茶店みたいな所があれば、病院嫌いの人もコーヒーを飲みに来たついでに医療相談、とかしやすいのかなぁと思ったりします。

Tシャツ姿のドクターとコーヒーを飲みながら、「こないだ健診でこんな数値が出たけどどうかな?」とか「こんな症状あった時は病院に行った方がいいか。どの科を受診すべきか」など、病院に行くまでではないけど、聞きたいことや悩み事を何でも気軽に聴ける。ドクターカフェがそのような場所になればいいかなぁと思っています。

ドクターカフェには栄養士さんや看護師さんや理学療法士さんやメンタルケアのできる職種の方もいて、例えば月曜は栄養士、火曜は看護師、というように、曜日毎に様々な職種の人が時にはコーヒーを淹れたりしていて、「相談したい職種の人がいる曜日にコーヒーを飲みにくる」といった使い方もできると思います。

まだまだ実現に向けては時間と労力とマンパワーが必要になりますが、ドクターカフェという場所を作れるように頑張っていきたいと思います。

富田一聖(第二富田クリニック)