2022年01月号 第82話 『まん防』狂騒曲

この原稿は令和4年1月24日に書いているが、昨日23日は、新型コロナウイルスの感染が最初に拡がったとされる中国湖北省武漢市がロックダウンした日から丸2年だという。この3日前の1月20日横浜港を出発したダイアモンド・プリンセス号だが、既にコロナ感染者が乗り込んでいたようで、3711人の乗員乗客のうち、最終的には計712人の罹患者が確認されたことはまだ記憶に新しいことと思う。以降、第1波~第5波を経て、今我々は第6波の真っ只中にあり、連日、未曾有の感染者数を経験している。検査キットやPCRの試薬が現場に枯渇しており、検査を依頼しても結果が判明するのは3~4日後とのこと。この間、軽症の感染者に折角お目見えした新薬を使用できず、何の為の検査か分からなくなってきており、軽症患者や無症状の濃厚接触者にPCR検査をする意味が無い時期に差し掛かっている。PCRを幾らしたとてコロナは終息しないことぐらい、PCRをやりまくっている他国の情勢を知ればすぐに分かりそうなものだが、当初、『PCR教』の如く、「PCRをもっとしろ!」「医師会は何をしている?!」とメディアで声高に叫んでいたコメンテーターの類は、今の状況をどう説明してくれるのだろうか。

公の電波で余り語られていないが、毎日診療をしていると、最近のコロナウイルスの感染経路は、「飲食店」ではなく、「密になる通勤電車」や「大勢客の居るスーパー」「学校や塾」がかなりの割合を占めているように感じている。今の「市中感染」とは、実はそういうことなのだろう。その証拠に、発熱や咽頭痛などの感冒症状で来院される患者に、「一体、どこで誰から伝染ったのだろうね?」と問えば、大半が「全く分からない」「飲食でお店には行っていない」「通勤(通学)で電車に乗るくらい」「買い物でスーパーに行く程度」と返答されている。
多くの人々は自粛し、節度を守っているにも関わらず感染しているのである。また、風邪の症状で受診されたので「検査を受けてください」とお願いしても、「いや、家で自粛していますから検査はしません」と断られたり、市販薬で済ませて医療機関を受診しないケースが多発している。毎日報告されている新規患者数は氷山の一角に過ぎないのだ。蔓延防止等重点措置で、午後8時以降の酒類の提供を禁ずるなど飲食店ばかりをターゲットにした方策は、2年前とは異なり、今となっては愚策以外の何ものでも無い。満員電車やスーパー、職場や学校、幼稚園、保育所、家庭内での感染がメインなのであって、もはや飲食店などを目の敵にするような中途半端な施策は意味を成さないと思う。むしろ、これまで他国に於いて、ロックダウンしようがワクチン接種率が上がろうが感染が全く収まっていない事実を鑑みると、感染患者を診ている我々医療関係者や、感染するような生活パターンを取っている、あるいは取らざるを得ない人たちが一定数感染し尽くしてはじめて収束に向かう、つまり感染者数が増えるところまで増えないと、収束へは向かわないというのが本筋ではないのだろうか。

オミクロンより更に感染性の強い「ステルスオミクロン」や、「デルタクロン」といった新たな変異株も出現したと報道されていた。これらが従来より更に死亡率の高い変異株だと判明した時点で対応していては手遅れになるから今の方策を採っているのだとしたら、それはそれで致し方ないのかも知れない。巷では、いわゆる『専門家』たちが跋扈し、無責任で好き勝手に毎日メディアで「如何に重症患者が減っているとしても、感染者数が増えれば重症者や死者が増えるので油断できない」「オミクロン株の次に、またいつ死亡率の高い変異が起きるかも知れない」といった具合に放言するものだから、いつまで経っても2類を5類に落とせないでいるのではないか。そもそもコロナの専門家など居ないではないか?!一般人は何を信じて良いものか途方に暮れており、毎日何人感染者が出たという報告に辟易としている。学校では一人感染者が出ると学級閉鎖らしく、先生たちも対応に大わらわでストレスが募る一方だ。「従来株に比べ重症化する報告例は現時点で非常に少ないが、高齢者や基礎疾患のある人がかかった場合、命を落とすリスクが潜んでいる」と言われ、実際に大阪府で基礎疾患のある80代男性が死亡し、オミクロン株に感染していたことがその後確認されたことで、一層危機感が増したようだ。しかしここで、良く考えて頂きたい。昔から、風邪をこじらせて肺炎で命を落とす者が大人も子供も大勢居たはずだ。ましてインフルエンザは、コロナ禍以前では軽症から重症まで年間1000万人近くが罹患していると推定されており、そのうち毎年数百~数千人が亡くなってきたのである。今の状況は誰がどう見ても季節性インフルエンザ並みかそれ以下かも知れない。「私、失敗しないので」というフレーズは絵空事で、一人でも犠牲者を出してはならないという綺麗事のスタンスでは医学は成り立たないことくらい、医師なら皆知っている筈だ。「ゼロコロナ」はもう無理だと分かっているのなら、亡くなった方々には大変申し訳ないしご冥福を祈るが、どうしても一定数の犠牲はやむを得ないというのがパンデミックの落としどころではないのだろうか。今の為政者は、重症者や死亡者数が増えた場合にマスコミなどから責任を問われることを恐れているだけのように見える。

第3回目のワクチン接種を、当初予定していた時期から前倒しで医療関係者や高齢者に行い始めているが、個別接種に配分されるワクチン量が極端に少なく、自院で個別接種を希望する方々全員には対応できそうもないため、極力集団接種を予約するように勧めている。しかし、よりによって5歳~11歳の子供たちにワクチン接種を進めるという施策がもうすぐ始まろうとしている。医師会として協力するというならそれに従うつもりだが、私はこの方針に賛成できない。ワクチン接種者に何か問題が出ないか長期的にフォローしたデータは無いのだが、流行当初に世界中で死亡者が出たため泡を食った我々は、まだ出来たてホヤホヤのワクチンにも関わらず藁をもすがる思いで超法規的に承認したのではなかったか?これからの世界の未来を担う子供たちに、このワクチンを接種して良いものなのだろうか?子供が感染して家に持って帰り家庭内感染を引き起こす確率を減らしたいという者も居るが、それなら親や高齢者、ハイリスクの者がワクチンを打てば良いのではないのか?デルタ株の場合、メリット>デメリットとなるのだろうが、今主流のオミクロンの場合、子供はほとんどが無症状か軽症だし、大人が仕事を休むのとは異なり家で療養しておれば良いのではないか?例えワクチンを打っていても一定の確率で感染してキャリアーになるわけで、家庭内感染をゼロにすることなど不可能だろう。ワクチンには心筋炎を起こすリスクもあり、現状を踏まえれば子供たちにワクチンを打つことへ期待する理由は余り見出せないので、賢明な日本人の親ならきっと接種を見合わせる方を選択すると愚考するが、果たして結果はどうだろうか・・・?

坂井 伸好(おうみクリニック)