2015年12月号 第9話 富士登山

今年の富士山初冠雪のニュースをテレビで見て、約10年前の富士登山を思い出した。まだ開業して数年目のことだったが、夏休みに家族で富士山に登ることになった。それまで車で5合目まで行ったことはあったが、頂上まで登るのは初めてだ。

当日は、妻の実家の静岡市から朝5時頃、車で登山口に向けて出発した。メンバーは私と妻それに小学生の息子3人と幼稚園児の娘の計6人だ。当時中学生の長女はそんなしんどいことはしたくないと妻の実家で留守番することになった。3か所ある富士登山口のひとつである須走口に午前8時頃着いた。この登山口を選んだ理由は、下山するとき火山灰の砂の中を滑るようにまた飛ぶように下りることができるとの情報を得た妻の提案だった。

実際に下山する時わかったが、現実は全身砂まみれになりながら転がるように下り、予想したほど華麗なものではなかった。子供達と妻の登山靴は新調したが、私は北アルプスなどで以前履いた古いものを使った。初日は8合目の山小屋までだったが、山小屋に着いたのはもう陽も暮れかけた午後7時頃だった。富士山は空気が薄く、またかなり寒いとの情報だったので、酸素入りの缶や衣類などでかなり重装備になり、到着が予定よりだいぶ遅れた。

翌朝は全員で頂上を目指すつもりだったが、幼稚園児の娘が高山病になり、妻と娘は8合目の山小屋に残ることになった。私と小学生の息子3人で頂上を目指して出発した。荷物は山小屋に置いていくことができたので身軽になり、子供達はまるで走るように登っていたが、私は荷物がなくてもやはりしんどかった。それでも、富士山頂に着いた時はさすがに感動した。

今では富士登山はいい思い出になったが、クリニックの診療で富士山愛好家の患者さんにときどき遭遇する。ある患者さんは、60歳を過ぎてから毎年夏になると富士登山をされていて、その患者さんとは登山ルートの話題などで盛り上がる。また別の70歳代の糖尿病で診ている患者さんは普段からよく歩いている方だが、今年は奥さんと一緒に富士登山をすると、春頃から準備をされていた。7月には練習をかねて標高差1300mの伊吹山に麓から登って自信がついたと報告された。ところが本番の富士山ではあいにくの悪天候のため登頂できなかった、と残念そうに言っておられた。

昨今は、富士山も世界遺産になったり噴火がうわさされたりするため、以前に比べて行きにくくなった感があるが、私も是非もう1度挑戦してみたいと思っている。

草津栗東医師会 理事 内田 和則(内田内科循環器内科)