2016年01月号 第10話 健康の秘訣:「食べること」と「歩くこと」

一部の病気を除き、大部分の病気の原因は、食生活、運動不足、喫煙、ストレス・・・などの普段の生活習慣が、発症や進行に深く関わっています。それを生活習慣病と呼びます。高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、肥満が代表的なものです。それらは単独でも恐ろしい病気ですが、重複すると(四つが重複すると「死の四重奏」と呼ばれている)命にかかわる危険が増します。

悪しき生活習慣により、血管壁にコレステロールなどがたまり、動脈硬化(動脈が硬くなり弾力性を失ってしまう)を発症し、血液の流れが悪くなります。重症化すると血栓(血の塊)で血管がつまり、血管を完全に塞ぎます。これら一連の事象は自覚症状がないまま進行し、そのまま病気に気づかず、また気づいても「自分は大丈夫」と、治療せず放っておくと、ある日突然、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞、下肢動脈閉塞症などが起こり、取り返しのつかないことになりかねません。

また、「がん」の発症にも生活習慣が関わっていることがわかり、「がん」も生活習慣病と言われています。胃がんの原因はピロリ菌(胃に住みつく細菌、60歳以上で70%の人が感染している)、肝臓がんの原因はC型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスで発症することがわかっています。ピロリ菌治療、肝炎ウイルス治療をすれば、2/3の胃がん、肝臓がんの発症を抑制することができます。胃がんの発症は、ピロリ菌と高塩分食が、肝臓がんは脂肪肝(肝臓の細胞の中に脂肪が蓄積)からの発症が最近増加しており、また、内臓脂肪の脂肪細胞はがん発症因子を放出し、がん抑制因子を抑制していることがわかり、がんと生活習慣は密接に関わっています。

糖尿病は認知症発症と関連し、がん発症率が高く、食生活や生活習慣の改善、糖尿病治療が、糖尿病だけではなく、認知症、がん、心筋梗塞、脳卒中などになる確率を下げることができます。

現在、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満などの生活習慣病になっている人は、それらの病気をコントロールすることで、生活習慣病にまだなっていない人は、生活習慣病を予防するため、(1)お酒の多飲と喫煙は避け、(2)野菜をたくさん食べ、(3)塩分に注意し、(4)魚などからいい油を取ることを心がけ、(5)そして適度な運動習慣を身につけることです。突然襲われ、倒れる、不幸にも亡くなる、介護の必要な状態になることを避けるため、各自一人ひとりが自分のため、家族のためにしなければならないことです。

昨年2015年は、団塊の世代(昭和22年~24年生まれ)が前期高齢者(65歳以上)になり、2025年には後期高齢者(75歳以上)に、2035年は団塊の世代が死亡平均年齢に達して最多死となり、3人に一人が認知症となります。「2015年問題」、「2025年問題」、「2035年問題」と言われる所以です。

年は取りたくなく、老いてもなお、老いてもますます健在と生きたいものですが、生物学的に年齢を重ねるごとに体は確実に弱っていきます。
「フレイル(Frailty, 虚弱)」、「サルコペニア(Sarcopenia, 筋肉減少症)」という言葉があります。フレイルは、(1)1年間で4-5kg以上の体重減少、(2)疲れやすい、(3)筋力(握力)の低下、(4)歩行スピードの低下、(5)身体活動の低下の5項目のうち3項目以上が当てはまればフレイルと定義します。サルコペニアは、筋肉量の低下に、筋力低下もしくは身体能力低下があれば、サルコペニアと診断されます。サルコペニアになると、力が衰え、運動能力が低下し、外出機会が減少し、社会的孤立となります。転倒・骨折しやすく、嚥下機能が衰え誤嚥しやすくなり、食欲低下、摂取量減少により低栄養状態となり、さらに筋肉量減少の悪循環に入ります。サルコペニア予防がフレイルを遅らせます。

高齢者は、食べることにもっともっとこだわり、高栄養食を食べやすい形態で、誤嚥しないように、少量を、ゆっくり、食べることに集中し食べることです。何より楽しい食事を心がけるべきです。日ごろから、できるだけ体を動かし、歩き、しっかり噛んで、しっかり食べる、家に閉じこもらず社会活動に参加し、毎日の生活習慣を続けてゆく努力が必要です。精神面では、くよくよせず、楽しいことを見つけ、感動し、常に笑顔でいることがストレスを回避する秘訣です。

先のことはわかりません。今日を、明日を楽しく生き、少し将来のことを考え、今日できる、明日もできる「良い生活習慣」を継続してください。

草津栗東医師会 理事 小山 茂樹
(社会医療法人誠光会 草津総合病院 副理事長)