2015年11月号 第8話 鎌倉彫に魅せられて

 もう五年になるでしょうか、義母が始めた鎌倉彫にはまりつつも、その奥の深さにおののいているこの頃です。小学校以来、手にしたことのない彫刻刀(その種類は左右刀はじめ現在二十本は所有しています)を一本購入し稽古が始まりました。その一本で三ミリ幅の線彫りを始め、押し刀、引き刀・・・。その半年後には作品が彫れるまでになっておりました。

彫りに使用する木地は現在北海道産の桂材です。資源が枯渇しつつありますので将来は銀杏なども用いることになるでしょう。木地に用いる桂材は長ければ数十年自然乾燥したものを用います。大きなお盆の木地になりますと数万円いたします。私たちは木地ごとに図案を考え、構図を考え、彫りを考え・・・。つまり彫り始めるまでに膨大な時間と根気が必要ということです。

今取り組んでいる作品は鎌倉彫後藤会 後藤尚子先生に絵付けをしていただいたフロアースタンドの大作(電球や傘をつけると高さは140cmにはなるでしょうか)です。ポピーの図案です。彫りは自由ですが先生は、大胆かつ斬新な彫りを望んでおられます(先生は東京芸大彫刻科の御出身です)。深い彫りに右手の指の変形がさらにひどくなってきたのではないかと思うほどです。年内に彫りを終え、鎌倉に送り、後藤会本部の博古堂で塗りに入り完成します。数ヶ月かかります。その後六月に展覧会がございます。

順序が逆にはなりましたが彫りは刀の研ぎ次第でしょうか。この頃は毎晩研いでおります(研がないと切れないためですが)。そのせいで爪は黒く、洗ってもきれいになりません、指紋も砥石で消えつつあります。切れ味が悪いと、切れ味がわるい包丁でおいしい和食が出来ないように、思うような彫りができません。
皆さんご存じの鎌倉彫のイメージは土産物として店頭に並んでいる朱色だと思います。最近は海外でも展覧会なども行われており認知度も広まりつつあり伝統的なものから斬新なものまで多種多様です。さらに、錫、銀なども塗れ、漆の色も調合でいろいろございます。出来れば作品をお見せしたいところです。

趣味をもつことはいいことです、鎌倉彫はもってこいです。たとえスランプが数ヶ月あっても木地が壊れたり腐ったりしません日常のストレスも彫っている間は忘れます、忙しい私向きなのでしょう(現にやりかけの作品も数点ございます)。以前、医療はアートであるとおっしゃった先生がおられましたが、まさに鎌倉彫はアートで私はアーティストならんとしているのでしょうか。最後に、ご指導を賜っており川野先生に感謝しお話を終えたいと思います。

草津栗東医師会 理事 駒井 慶和(駒井 厚彦)(あなむら診療所)