2015年08月号 第5話 在宅医療の現場から見えてくる問題について
医療保険制度と介護保険制度の範疇外に生じている問題について事例を挙げて検討したいと思います。
現在、眞下草津医院在宅療養支援診療所が担当している在宅患者は41人です。内訳は、独居老人5人、65歳~75歳の高齢者で老老介護を受けている人6人、75歳以上の後期高齢者で老老介護を受けている人6人、息子、娘などの介護者がいる人12人、グループホームとサ高住入居者12人です。
【問題点1】
寝たきりで独居の5人の方には家族による介護はほとんどありません。介護、医療関係者がなるべく関わるようにしていますが、ほとんどの時間は独りです。数か月前、私たちが訪問する12時間前に、すでに亡くなっていた事例がありました。
【問題点2】
老老介護家庭においては、お出かけが出来ないことや、食事が問題になります。近年配食サービスはかなり充実してきました。しかし配食は内容が単調であるが故、飽きが来るという意見が多いようです。たまには自分の食べたい物の買い物に行ったり、外食したいことがあるようですが、出かける術がないようです。気晴らし、日用雑貨の買い物に於いても外出することが出来れば生活の質が高まり、生活に広がりが持ててADLに向上が図れると思います。手軽に頼めるボランティア的なものが必要ではないかと思います。
【問題点3】
在宅診療をしていると、自院だけでは治療できない疾患に会うことがあり、他科(たとえば皮膚科や、認知症専門医)への受診や病院受診が必要になることがよくあります。その場合、介護タクシー利用、タクシー利用、ヘルパー利用が考えられますが、時間制限があったり高額料金になったりするので手軽に利用できないのが現状です。【問題点2】での提案と同様、手軽に頼めるボランティア的なものが必要ではないかと思います。
【問題点4】
訪問診療を受けている患者様の全例に認知症(Ⅰ~M)がありました。認知症Ⅲ以上は19人(45%)でした。最近、認知症の方が夜中2時に「(すでに亡くなっている)主人がまだ帰ってこない」と警察に電話し、パトカーが来てご近所が大騒ぎになった事例がありました。認知症高齢者には地域での、きめ細かい支援が必要です。
【その他】
在宅医療の現場では悲惨な状況を目にします。昨年は、死後数時間たって発見された独居の方を2人診察しました。誰にも見守られることなしに、異様な格好で亡くなっておられました。尊厳が無い状態で淋しく終末を迎えられたことは気の毒でした。また後期高齢者の老老介護は悲惨です。介護される側も、する側も、正に這いつくばりながらの老々介護をされています。
<考察>
以上の問題ある現状をさらに大きくした今後の超高齢社会の到来に対し、私たちはどの様に取り組めばよいのかは喫緊の課題であり、今まさに取り組まれている総合支援事業の方向性にかかっていると思います。医療保険、介護保険、福祉施策で賄いきれない事項においては、畢竟(ひっきょう)、ボランティアがその要になると思います。具体的には次に述べる通りです。
- 市民へ互助、共助、自助の考えを啓発し隣近所のお助けをお願いする。
- ボランティア育成を推進する。ボランティアについて述べると、無償では成り立ちがたいと思われます。後での見返りがあるポイント制なども考えられないだろうか。
- 病院や買い物に対して、介護保険外に気軽に頼める「付き添いの派遣」などの制度があればいいと思います。
- 安否確認、見守りのシステム構築について
事例を書きました通り、安否確認はまだまだ不足しています。何らかのネットワーク構築が必要です。
平成26年度草津市医療福祉未来研究会投稿から抜粋)
草津栗東医師会 理事 眞下 六郎(眞下草津医院)