2024年10月号 第113話 喜び

「あの子が自転車に乗れるようになったら、行ってみよう」
妻とそう話していた我が家の3番目の子は小学3年生になり、近所5分くらいの距離にある習い事へは、自転車に乗り1人で出かけられるようになった。

今年の8月、我が家は「しまなみ海道」で自転車ツーリングをすることにした。自転車ツーリングといっても、未経験の5名では、広島県尾道市から愛媛県今治市までの制覇、ましてや往復などは到底困難で、尾道港から向島・因島へと渡り、HAKKOパークでUターンをして尾道港へ戻る短縮プランにした。当日は午前6時に自宅を出発し、スタート地点の尾道港まで車で向かった。

尾道ラーメンで腹ごしらえを済ませ、午前11時には予定通りに自転車をレンタルすることができた。当初の週間予報が外れてくれたおかげで、現地はこの上ない青空に恵まれた。借りた自転車と記念撮影をしているだけでも汗が吹き出し、暑さで先行きの心配はあったが、スイスイと走り出している子ども達の後ろ姿を追いかけていると、そんな心配はどこかへ行ってしまった。いざ走り出してみると、ほのかな潮の香りの向かい風で暑さはさほど感じることなく、真横に拡がる瀬戸内の穏やかな海に癒されていた。また、因島大橋の上から見渡す瀬戸内海に浮かぶ島々は絶景であった。猛暑の中で、35kmの道程では急勾配もあり、小学生にとっては体力的に少々厳しかったものの、誰も弱音を吐くことなくペダルをこぎ続け、家族全員で完走することができた。1日で真っ黒になった子ども達と、夕暮れを背にゴール後の尾道港では互いを称え合った。苦労の先に目標を達成できたときの喜びはやはり格別であった。

しまなみ海道

日々多忙な臨床場面において、心身不調からの回復、という喜びが当たり前になっていないだろうか。喜びに浸る時間的余裕などなかなかないものの、回復を患者とともに喜び、関わった医療チームで共有する。これはとても大切で、患者・医療従事者双方の治療意欲の向上にも寄与する。喜びは、共有することにより増幅するものである。小さなものであれ喜びをしっかり味わいながら生きていきたい、と改めて感じた夏になった。

2015年4月より勤務を続けておりましたが、2024年8月1日、医療法人加楓メープル・クリニックの院長に就任いたしました。皆様には今後ともいろいろとお世話になりますが、何卒ご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

寺西聡司(医療法人加楓 メープル・クリニック)