2015年06月号 第3話 開業医の役割
私たち開業医は、大きな手術をしたり、最先端の治療を行ったり、特殊な検査をしたりすることはありません。地域の患者さんの日々の健康管理を行い、将来の大きな病気を予防するために、その患者さんに適したお薬を選んで、飲んでもらうことが主たる役割です。
例えば、高血圧や、糖尿病、高コレステロール血症があると、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患になりやすいことがはっきりしていますので、血圧を下げる薬や、血糖を下げる薬、コレステロールを下げる薬は、将来の動脈硬化性疾患の予防薬として、大変有効であることがわかっています。心房細動という不整脈の患者さんが、血栓を予防するお薬を適切に内服すると、脳梗塞になるリスクを著明に減らせることもわかっています。よく、「薬は、ずっと飲み続けないといけないんですか?」と聞かれます。脳梗塞や心筋梗塞などは、高齢になるほど発症しやすいので、「この薬は、これらの病気の予防薬だと思って、ずっと続けてください」と説明します。
お薬にはたくさんの種類があり、また日々新しいお薬も出てきます。私たち医師ひとりひとりの経験など、高が知れていますので、大規模臨床試験という、世界中で多くの患者さんを対象にして、お薬の効果などを数年にわたって調べる試験の結果などを参考にして、目の前の患者さんに適していると思われる薬を選んで、飲んでいただくことになります。いわゆる根拠に基づいた医療(EBM)です。お薬には副作用もあるわけですから、その患者さんにとって、あるお薬を飲むことのメリット、デメリットを天秤にかけて判断しています。
日本は超高齢化社会です。長生きすることは喜ぶべきことですが、反面、多くの人がいろいろな病気を発症して、病とともに生きるということです。加齢とともに動脈硬化性疾患も、癌も、不整脈も、認知症も増加します。80歳以上では4人にひとりが認知症になるとされています。物忘れがひどくなると、たくさんのお薬を間違えないように飲み続けるのは大変です。先日も新聞に、たくさんのお薬を処方されている認知症高齢者の自宅を薬剤師が訪問してみると、数十万円分のお薬が袋に入ったまま残っていた、という記事が出ていました。お薬は、正しく内服すれば有効ですが、副作用がでることもありますし、間違えてたくさん飲みすぎたりすると、危険な合併症が起こることもあります。糖尿病のお薬を飲みすぎると、低血糖になって意識を失うこともありますし、血栓を予防するお薬を飲みすぎると、大出血を起こし、命にかかわることもあります。飲み忘れも問題ですが、飲み過ぎはさらに危険です。
これまでは、患者さんにとって有効なお薬を選んで、飲み続けてもらうことが、私たち開業医の主たる役割でしたが、これからは、お薬を飲み間違えた場合の危険性などを考慮して、有効だと思って飲み続けてもらっていたお薬を、危険性との天秤にかけて、中止する判断をすることも、重要な役割になっていくのだと思います。
草津栗東医師会 副会長
中嶋 康彦(なかじま医院)