2019年02月号 第47話 海外出張

いま、シンガポールでこの原稿を書いています。
旅行記のように格好よく書き出してみました。普段、午前は外来診療をして、午後はインターベンション治療を行う毎日を過ごしていますが、年に数回、海外出張にも出かけます。今回はシンガポールライブに参加するため、初めてシンガポールを訪れました。赤道直下の国で、冬でも気温は30度を超える暑さです。

当院はインターベンション治療に特化した病院であり、病院での診療だけでなく、学会活動にも積極的に取り組んでいます。私も日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)とComplex Cardiovascular Therapeutics(CCT)の理事として、学会の仕事に携わっています。CCTは、当院初代院長である玉井秀男先生と、同じく日本を代表するドクターである加藤修先生と鈴木孝彦先生の3人が中心となって設立した、インターベンション治療のライブ教育を目的とした学会です。世界でも有数のライブコースであり、海外から多くのドクターが参加します。インターベンション治療の分野では、特に慢性完全閉塞病変などの複雑病変の治療に関して、日本は世界をリードしており、アジアのドクターは日本の治療技術を学びに来るのです。また、世界各地、例えば、中国、台湾、韓国、シンガポール、インド、ヨーロッパ、アメリカなどでも、同じようなライブコースが開催されており、そこにCCTのメンバーが参加してライブオペレーターや講演を行っています。

私は東アジアに出張することが多いのですが、中国の発展には驚かされます。湖南省湘潭市に姉妹提携病院があり、よく訪れますが、行くたびに街が近代的になってきています。7年前に初めて訪れたときには田舎ののんびりとした感じでしたが、いまや高層ビルが立ち並び、高級車も多く走っています。中国の新幹線にも乗ったことがありますが、揺れも少なく、時間も正確で、乗り方に慣れれば非常に便利です。ただ、飛行機の乗り継ぎだけは大変です。上海や北京の空港は飛行機の離着陸数が多すぎて、管制コントロールが追いつかず、濃霧などの悪天候も影響して、遅延や欠航が頻繁に起こります。ひどいときは、出発が5時間遅れて、上海空港で10時間も過ごしたこともありました。全ては人口の多さと急速な発展に伴う副産物でしょうか。

冠動脈のインターベンション治療(PCI治療)に関しても、中国の症例数は急速に伸びています。日本は、2006年に年間20万例を超えて、その後少しずつ症例数が増えて、最近は年間26万例程度ですが、中国は2009年に年間20万例を超えて、最近では年間70万例に達する勢いです。それでも人口に対する比率からするとまだまだ少なく、患者さんの多さにPCI治療が追いついていない状態です。生活習慣も影響しているのでしょうか。日本よりも若い患者さんが多い印象です。おそらくこれから地方の病院もインターベンション治療を積極的にやりだして、さらに症例数が増えていくものと思われます。治療技術に関しては、若い先生たちが日本の治療技術を学び、それを実践することで、この数年で格段に向上してきました。当院にも定期的に中国から若い先生が研修に訪れます。
日本では2018年4月の診療報酬改定において、PCI治療に対して術前の虚血評価が厳格化されました。患者さんの不利益となるような治療を減らし、医療費の削減を目指していると思われます。その上、生活習慣病の予防などで、虚血性心疾患の患者さんは減少していくと思われますので、日本ではPCI件数は横ばいもしくは減少していくのではないでしょうか。

高度な技術をもとに、質の高い医療を提供するのが我々の使命です。アジアの若いドクターの情熱に触れ、気持ちを新たに、明日からの診療を頑張って行きたいと思います。

辻 貴史(草津ハートセンター)