2016年09月号 第18話 日本語の劣化?

近頃のテレビはクイズ番組がやたらと多いように感じられるのだが、調べてみると、昭和の頃に比べて随分減っているらしい。戦後の復興もひと段落してからは、テレビの娯楽番組といえば時代劇かお笑い番組、そしてクイズ番組である。クイズ番組といえば、年配の方々には「連想ゲーム」「アップダウンクイズ」「クイズダービー」などがお馴染みだったのではなかろうか。他にも、「タイムショック」「アタック25」「ウルトラクイズ」などの長寿番組がすぐに想起される。昔は素人がクイズを楽しみながら賞金獲得というパターンも多かったと記憶しているが、最近のクイズ番組は芸能人ばかりがワイワイ騒いでおり、これが結構鼻につく。視聴率が命のテレビ番組ゆえ、素人では数字が取れないのだろう。

そんなこんなの近年のクイズ番組を黙って観ていると、結構な難問も出題されている。「ふ~ん・・・」「知らなかった!」「ホンマかいな?!」と思える事もしばしばで、時には赤面ものの勘違いをしていたり、完全に嘘の情報を脳にインプットしてしまっていたことを知らされて愕然とすることも少なくない。つい十年ほど前までは、「おバカタレント」がとんでもない珍解答をしているのを視聴者が小馬鹿にするようなレベルのクイズ番組ばかりが目立っていたが、最近では、比較的高学歴とされるタレントや文化人が難問奇問に挑戦している番組も増えている。

『他力本願』というと、自分の力では困難なので他人の力を当てにしてしまう、まさに「他人のふんどしで相撲を取る」ことのように思っていないだろうか。事実、新聞の社説や雑誌のコラムでも、例えば「決して他力本願にならず、自分の力で克服すること」といった具合に書かれているのを何度も目にしてきた。しかし、あるクイズ番組での解答を聞いて驚いた。『他力』の語源は仏教にあるという。浄土真宗の開祖である親鸞聖人は、「『他力』と言うは如来の本願力なり」と明示、阿弥陀如来の本願力のみを『他力』とした。つまり、阿弥陀仏の本願力は、我々の苦悩を打ち破り人々に安寧や充足を与える力であり、これが『他力』だというのだ。世間では通常、『他力』と言えば己の力以外の力を指すものだ。友人やご近所、学校の先生などは他力だし、雨風や太陽・月など森羅万象の働きも当然の如く他力となる。

だが、天災をはじめ、戦争や飢饉、疫病の類は人命を絶ち人々を苦悩に導くが、もしこれを『他力』とするなら、阿弥陀仏が我々を苦しめることになりはしないか?実は、これらは人間の力、自然の力によるものであり、これぞ『他力』の大きな誤解らしい。『他力』とは、「未来永劫、人々を大安心、大満足の絶対の幸福へ導いてくれる力」に対してのみ用いられる言葉だという。医学や薬学、科学、等々が例え幾ら進歩しようとも人類の苦悩は決して無くならないので、『他力本願』で救われなければ真の意味での幸福に絶対なれない、というのが本来の意味である。ご存知だっただろうか?

『爆笑』。
「漫画を読んで一人で爆笑した」というのは誤用。そもそも『爆笑』とは「大勢の人が笑う」という意味らしい。自分ひとりで腹を抱えて笑うのは決して『爆笑』とは言わない。そういや先日、医師会の日帰りツアーに参加し、吉本新喜劇を見て皆で『爆笑』しましたっけ。

『姑息』。
「誰も見ていないと思って姑息な手を使いやがって」という用い方をしていないだろうか?『姑息』には「卑怯な」とか「正々堂々としていない」の意味は無いという。「大出血していたので姑息だが手で圧迫して止血した」のように、「一時のがれ」「その場しのぎ」の意味らしい。

『煮詰まる』。
「行き詰まって結論が出ない」ような状態を指すと思っていたが、正しくは「十分に検討なされて結論が出る段階に近づく」という意味とのこと。

『貯金』は郵便局にするもので、銀行に預けると『預金』という。
『解答』は問題を解いて出す答え、『回答』は相手の疑問や質問・要求などに答えること。『鑑賞』は絵画や写真、陶芸などの芸術的なものを見るときに用いられ、『観賞』は植物、自然、動物などの芸術的な作品以外のものを見て楽しむ時に使われる。

日本語はかくも難しいのである。日本人としては、やはり正確な言葉を使いたいものだが、統計をとると、本来の正しい意味で使う人より間違って使う人の方が遥かに多いそうだ。これは、日本の国語教育のレベル低下によるものだろうが、言葉は「生き物」で常に進化している。実際に大勢の人が既に使用しており違和感が無いようであれば、もうその言葉の古い正しい意味に固執する意義は薄いので、新しい現代の解釈に変えた方が良い時期なのかも知れない。ただ、「論語」における『温故知新』にあるように、古いことを否定するのではなく、正しい意味を知った上でのことでなければ、日本語は劣化の一途と言わざるを得ない。

草津栗東医師会 理事 坂井 伸好(おうみクリニック)