2026年02月号 第126話 僻地医療を支える素晴らしい制度の現実

須津整形外科を継承し、「ひの医院」を開業いたしました日野拓耶です。私は兵庫県姫路市の出身で、現在でも時折話題に上がる「地域医療に従事するかわりに学費をサポートしてもらえる」制度を利用して医学部を卒業し医師になりました。兵庫県には「兵庫県の僻地医療を担うことを条件に、兵庫医科大学の学費全額を兵庫県が肩代わりしてくれる」制度(兵庫県養成医制度)がありました。私の家族には医療者はおらず、日本の平均的な収入しかない家庭だったこともあり、この制度を利用して兵庫医科大学に進学させていただきました。大変お世話になった兵庫県の県養成医制度ですが、その具体的な内容が語られることはあまりないため、ここで少し紹介してみたいと思います。私の記憶をもとに書いておりますので、多少の誤りがあるかもしれませんが、その点はご容赦ください。

まず受験の流れですが、まずは一般受験生と同様に兵庫医科大学を受験します。私は一般家庭の育ちでしたので、試験会場で周囲を見渡しながら「ここにいる人たちは、みんな私立医学部の学費を支払える家庭なのだろうな」と思っていたことを覚えています。また大学の一般入試とは別に、兵庫県庁での面接と小論文試験がありました。合格発表はまず大学で行われ、昔ながらの張り紙による発表で一般的な合格を確認しました。これに合格していれば通常の学費を支払って入学できますが、我が家にはそのような余裕はなく県養成医師として採用されているかどうかが重要でした。

県養成医師の合格発表は兵庫県庁で行われ、医務課のような部屋の壁に、名前が一名だけ掲示される形式でした。そこに掲示されていたのが私の名前でした。私と同じように大学から県庁へ移動してきた学生もおり、その方は私の名前を見て静かに帰っていきました。その後、自宅に大学から合格通知と入学金の振込用紙が届きました。金額は確か約990万円だったと思います。家族一同、愕然としたのを覚えています。

その振込用紙を兵庫県庁に持参し、県に代わりに納めてもらう形になります。ちなみに国公立の前期後期の試験日には県庁での説明会とランチに出席しなければなりません。国公立大学を受験させないためのシステムです。これに出席しないと合格は取り消しになります。恐ろしいシステムです。兵庫県が学費を支払ってくれるとはいえ、それは私個人の借金として扱われます。19歳で1000万円を超える借金を背負うことになりました。父が保証人、叔父が連帯保証人となり、もし私が医師になれず僻地医療の義務を果たせなければ、その返済義務は家族に及びます。しかも利率は年14%でした。1.4%ではありません、14%です。大変おそろしい制度です。年末年始に親戚が集まった際、叔父から「拓耶が医者にならんかったら、日野家は滅亡やからな」と言われたことは、今でも鮮明に覚えています。

さて、なんだかんだで卒業し医師になると、約束していた僻地医療が始まります。兵庫県北部には、村岡、香住、浜坂といった過疎地域があり、その中心となる中核病院として豊岡病院や八鹿病院があります。中核病院とはいえ、周囲にはほとんど何もなく、冬場は積雪のため移動も困難で、なかなか厳しい環境でした。都会で学生生活を送っていた私にとっては耐えがたい面もあり、「何とか借金を返して都会に戻れないだろうか」と考え、県に返済額を問い合わせたことがあります。

その際に告げられた金額は、利子を含めて約5800万円でした。おそろしい金額です。義務年限は9年間で、その間はどれだけ働いても借金は一円も減りません。9年間の義務を完遂した瞬間に返済は全額免除となります。本当によくできたシステムです。9年目の終わり頃には、借金が消える日を指折り数えて待っていました。こうして義務を終え、晴れて自由の身となり、滋賀県へやって来ました。

草津は、生まれ育った姫路と同じくらい活気があり、私にとって非常に暮らしやすい土地です。この地で開業できたことに感謝し、僻地医療で培った総合診療の知識と経験を生かして、草津・栗東地域の皆さまの健康増進に努めてまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

ひの医院検査

日野 拓耶(ひの医院)