2020年02月号 第59話 休日急病診療所を利用する市民の皆様へのお願い

突然ですが、「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!をご存知でしょうか?
厚労省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」は平成30年10月5日(第1回)から平成30年12月17日(最終回)まで行われました。この懇談会は国民や医療従事者の命や医療を守るために、5つの方策を提案し、国民みんなで関わるべきプロジェクトであるとされて行われました。そのメンバーには村木厚子元厚労省事務次官、デーモン閣下タレント、渋沢健司東大教授、城守国斗日本医師会常任理事等です。このメンバー全員が医療機関の疲弊を痛感し、この危機感を共有して他人事でないと感じて宣言しました。その5つの方策とは

  1. 患者・家族の不安を解消する取組を最優先で実施すること
  2. 医療の現場が危機である現状を国民に広く共有すること
  3. 緊急時の相談電話やサイトを導入・周知・活用すること
  4. 信頼できる医療機関を見やすくまとめて提供すること
  5. チーム医療を徹底し、患者・家族の相談体制を確立すること

の5つです。この5項目に対して、「かかりつけ医」を持っている患者さんの場合は再診した時に地域貢献加算が平成22年度に新設され、平成24年度に時間外対応加算1・2・3に変更されました。いずれも、24時間電話等で適切に対応してもらえるシステムです。このシステムを利用すれば症状の変化とか新たな症状等が生じ、不安になった時にこれらを解消するため「かかりつけ医」に診療時間外でも相談できて対応してもらえます。

また「国民プロジェクト宣言」は具体的な行動を起こすことを提案しています。まず医師の疲弊を放っておくと確実に医療現場は崩壊するということを認識してください。それは、日本において「医師は、全職中、最も労働時間が長い」という事実です。また日本の医師の「3.6%が自殺や死を毎週または毎日考える」や、「6.5%が抑うつ中程度以上である」、や「半数近くが睡眠時間が足りない」、そして「76.9%がヒヤリ・ハットを体験している」ことなども知ってください。こういう現実を放置していると確実に医療の現場は崩壊してしまいます。このことはしっかりと市民の皆様は認識しておきましょう。このような状況に陥っている医師が正しい判断が出来ると思いますか?無理でしょう。医療安全の観点からも不安で、受診者に多大な迷惑が掛かり、ひいては医療事故・過誤等の危険が存在します。そのような状態の医師の診察、診断等をお受けになりますか?私ならご免こうむりたいです。

ここで、医療危機を招いている要因は何か考えてみましょう。「医療危機」はどのような要因からおこるのでしょうか?この解決に取り組みましょう。重要な問題であるからです。その要因として、4つの要因が考えられます。

国民総力戦でこの危機を国民みんなが招いた危機だと考え、医療の恩恵を受けているすべての人が考え、4つの医療危機の要因を乗り越えるための具体的方策の例を要因ごとにアクション例を示します。

1. 市民のアクションの例

様子が普段と違う場合は焦らずに、「かかりつけ医」と相談・活用し、受診を迷ったら#8000や救急医療情報案内(077-553-3799)や「医療ネット滋賀(077-524-7856)」の電話相談を利活用します。まず状態を把握することにより、急がずに夜間や休日に受診するよりも、できるだけ診療体制が十分整った日中の受診を心がけましょう。
インフルエンザチェックのための受診は控え、学校や企業もインフルエンザなどの診断書を強要しないことも必要なことです。

2. 医師/医療提供者のアクションの例

各種検診時、待合室、公開講座等あらゆる機会を利用して、「医療のかかり方」を啓蒙します。
業務の移管、共同化を推進し、管理者は「働き方改革」に真摯に取り組み、地域医療の継続にも貢献しましょう。
医療従事者は「患者の安全」のため、健康管理に努め、きちんと休暇をとる努力をしましょう。

3. 行政のアクションの例

「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクトを継続、推進し、効果を検証して、医療危機の現状を国民に広く共有し、「上手な医療のかかり方」を直接伝えていく必要性の理解を得ていきましょう。
医療機関の機能分化や集約、連携推進など、医師/医療従事者の長時間労働を改善する施策に取り組み、働く人が日中に受診できる柔軟な働き方を進めましょう。

4. 民間企業のアクションの例

柔軟な働き方に関する指標を経営に生かし、仕事を皆でシェアし従業員の健康を守ることを経営の柱としましょう。また体調が悪い時は、休みを取って自宅休養ができるようにしましょう。
あらためて、「医師の働き方改革」のことを考えてみましょう。これは2016年9月2日に内閣官房に設置され、2017年3月28日「働き方改革実行計画」が決定されました。「医師については、時間外労働規制の対象とするが、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要である」とされ、「改正法の施行日を5年後を目途に適応する」としています。医師も労働者であり、労働の対象は患者と呼ぶ人間であることから、「医療安全」が第一となります。「医療安全」即ち「患者を害してはいけない」ことで、過失の存在は過失致死傷罪になってしまいます。また、医師には「応召義務」という制約があります。しかしこれより優先されるのが「医の倫理」です。この意味で、医師が過労状態であれば、招かれても応じてはならないのです。過労かどうかは一義的には医師本人の判断によることになります。すなわち「過労死ラインを越えては、医療の安全は守れない」ことになります。このことは勤務医に限ったことではなく、開業医にも当てはまるのです。

以上のことより休日急病診療所に受診する受診者は「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!の趣旨をよくよくご理解し納得していただいて実行、行動することを期待します。いかがでしょうか?是非実行し行動してください。しかし一方で、急変(高熱・腹痛・下痢・嘔吐・痙攣等)時は皆さま不安でしょう。こいうときは、「かかりつけ医」の時間外対応加算算定医療機関に電話するとか#8000とか「信頼できる医療サイト」を活用して、不要不急と思われる状態である場合には翌日に「かかりつけ医」を受診する対応で、休日急病診療所、救急病院への受診は控えることが可能となるでしょう。しかし命に関わる病態と思われる場合は我慢せずに、遠慮せずに救急車で救急病院を受診してください。
湖南広域行政組合広報紙に、「休日急病診療所は応急的な診療を行うことを目的としています。」また「市民の皆さんへのお願いです」には「限りある救急医療体制を最大限に生かすために、ご協力をお願いします。投薬は原則1日分、休日分です。レントゲン検査や血液検査等はできません。必要時は二次救急へ紹介します。後日の受診は「かかりつけ医」へ」と書かれています。皆様はこれをお読みになってご確認してご協力ください。

湖南広域休日急病診療所開設以降の受診者数等の状況をみましょう。

この休日急病診療所は平成25年に開設され約6年になります。12月から翌2月の3カ月の平均受診者数をみますと、平成25年124名、26年248名、27年167名、28年196名、29年252名、30年235名、初年度受診者数を除き確実に受診者数の増加がみられます。中でも平成30年2月11日391名、平成31年1月13日462名、1月14日407名、1月20日401名と10AM~10PMの受診者数は殺人的な数値です。これを市民の皆さまはどの様に考えるでしょうか。特記すべきは平成31年1月13日の510名の受付数があったことです。さすがに48名がキャンセルされました。それでも462名が診察を受けられました。オンコール医師も動員されましたが、医師の引き揚げ時間は翌日午前1時15分になりました。その他の職種が引き揚げた時間はそれぞれ薬剤師は翌日5時45分、看護師は翌日6時、医療事務は7時、職員は翌日8時になりました。受診患者さんをはじめその家族は大変な思いで診察や投薬の順番を今か今かと待たれたことでしょう。一方で医療関係者の献身的な勤務にも敬意を表します。はたしてこの状況でよいのでしょうか?それぞれ翌日は休みでなく通常勤務に就くことになります。この状況で「医療の安全」が守られ、医療過誤の発生に導かないだろうかと懸念します。この事態を予防するのがまさに「働き方改革」ではないでしょうか。また市民一人一人の「国民プロジェクト宣言」の行動を実行すればこの事態を予防できて、回避できるのではないでしょうか。

「いのちをまもり、医療をまもる」為に行動をしましょう。平成31年1月13日の異常な状況で翌日通常診療に従事することは「患者を害さない」という「医療安全」にならないと思われますが、いかがでしょうか考えものでしょう。

草津栗東医師会 理事 大西 淳夫(大西医院)