2019年12月号 第57話 いのちの授業
京滋ドクターヘリが就航した4年前の春、当院の屋上ヘリポートに黄色い風船が引っかかっているのをドクターヘリの機長が発見しました。風船には手紙が付けられており、兵庫県たつの市立越部小学校の6年女児によって書かれたものと分かりました。越部小学校に風船が届いたことを連絡すると、校長先生からお礼の返信があり、同校の開校140周年のお祝いに児童が飛ばした350個の風船の1つであることがわかりました。越部から栗東まで約160Kmの距離を風船が手紙を運んだことに感動し、同校との交流が始まりました。
同年の秋、当院の医師・看護師が同校を訪問し、6年生約30人に「いのちの授業」を行いました。小児救急医の野澤医師が、「もし自分の兄弟姉妹が脳死になったら、臓器を提供するか?」という内容の授業を行いました。児童の意見は様々でしたが、悩んで涙を流す児童もおり、みんな真剣に考えていることが分かりました。看護師からはドクターカー・ドクターヘリの話に加え、「ナースのお仕事」というタイトルで、看護師の仕事内容を紹介しました。翌年、私が同校を訪問し、今度は「祖父母が重症肺炎で厳しい状態になったとき、延命治療として人工呼吸器を装着するか?」という内容で授業を行いました。このときも児童はみんな真剣に考えて、自分の意見を述べてくれました。越部地区は田園がひろがる長閑な地域であり、三世代で暮らす家族が多く、祖父母を身近に感じているようでした。多くの児童が延命治療をしてほしいという意見でしたが、意識もなく寝たきりで生きているのは可哀そうだからという理由で、延命を希望しないとはっきり発言する子もいました。小学6年生は、私が考えているよりしっかりしていることが分かりました。
授業の最後に「生きる」とはどういうことか?について児童に問いかけました。児童は自分の答えを考えあぐねている様子でした。私は、「生きるとは他の人の役に立つこと」ではないか?と自分の考えを説明しました。なぜ人は生きていくのか?それは社会に出て他人の役に立つためである。人は決して自分1人では生きていけない。多くの人に支えられて生きている。だから、みんなも誰かの役にたつような仕事をして欲しい。そして、決して自分や他人を傷つけないで欲しい。私からのメッセージを児童は真剣に聞いてくれました。同校の先生方、一緒に聞いてくださった保護者の皆さんから、大変良かったとの意見を聞き、嬉しい気持ちになりました。
後日、小学校の教員になっている中学時代の同級生にこの話をしたところ、是非自分の勤務している小学校で「いのちの授業」をして欲しいと依頼されました。昨年、私の出身地である京都府福知山市の2つの小学校で授業をしました。その際、ドクターヘリの話も盛り込みました。今年になり、私の母校である福知山市立天津(あまづ)小学校から授業の依頼がありました。同級生は18人で当時からかなり小さな学校でしたが、現在は全校生徒28人であり、残念ながら今年度で閉校になることが決まっています。授業日は12月5日の予定です。救急医として、母校の後輩にいのちの大切さを伝えられることを楽しみにしています。
塩見 直人(済生会滋賀県病院)