2018年06月号 第39話 20年後

こんにちは。
草津市追分で小児科クリニックをしております問山健太郎です。平成8年に京都府立医科大学を卒業しております。今回、原稿を担当するにあたって、何を書こうか大変悩みました。これといった趣味もなく、強いて上げればパソコンの自作と弓道ぐらいですが、パソコンの自作は開業後、時間が取れなくて現在は全く行っておりません。弓道も、出身の大学弓道部の師範代を引き受けているので、学生さんの相手(指導)はしているのですが、自分の練習の時間が全く取れず、文章を書けるような状態ではありません。さて、どうしたものか、と困っていたところ、週刊東洋経済の2018.4.7号で「20年後ニッポンの難題」と題打って、将来予測の特集記事がありました。また、週刊ダイヤモンドの2018.5.19号で「20年後も医学部・医者で食えるのか?」と題した特集が組まれていました。偶然か必然かわかりませんが、20年後の特集をしていたので、どちらも興味を持って読んでみました。私自身、今年で卒後22年目になります。研修医を修了して、医師として働き始めてからならちょうど20年になります。20年前といえば、ポケベルから携帯電話に移行し始めた時です。医療では、内視鏡で早期胃がんの治療が広がり始めた頃でしょうか。心臓カテーテルでは、ステントが広がり始めていたころと記憶しております。20年前には現在のような世の中が予想できませんでした。同様に、20年後の自分自身や世の中について、まったく予想ができません。常々、将来的にこの職業(医師)でやっていけるのかどうなのか、漠然とした不安があったので、ちょうどよい機会ですし、自分なりに分析してみることにしました。よろしかったらお付き合いください。

まずはご承知の通り、今現在も進行中で将来的に一番問題になってくるのが人口減少です。日本の人口は2008年をピークに減少を続けております。2018年4月の時点では1億2653万人と推定されております。20年後の2038年には1億490万人に減少しております。実に20%近く減少している計算になります。高齢化率も上がっていて、総人口に占める60歳以上の割合が39.9%、70歳以上の割合が23.7%になっております。結果として労働人口は減少の一途にあります。これに伴って、健康保険の財源の問題が深刻化してきて、2025年には現在の保険料の4割増しでないと賄えないという予測が出ているようです。具体的に数値を見ていくと、草津市の国民健康保険は現在は最高で年額58万円(1か月あたり48000円)です。ほかに、後期高齢者支援分が年額19万円、介護保険分が年額16万円で、合計1年間で93万円かかっております。これが、4割の増加で年額130万円になります。滋賀県の医師国保の場合(医療保険分のみ計算になりますが)、現在は4人家族だと年額82万円ですが、年額114万円になることになります。年間30-35万円の増税と同じことです。さらに国の税収に関して見てみると、高齢化に伴って労働力人口が減少するので、国全体の生産性が低下する可能性があります。そもそも人口が減るので、所得税等の税収がへることと、企業の生産性が低下することで法人税等も減少することが予想されます。国債も、現在のペースで発行を続けていくのは無理があると思われるので、結果として、将来的には国の税収が減少せざるを得ないと思われます。しかしながら、税収予測は、様々な要素が入ってくるためか、特に資料として出てくるものはありませんでしたので、こちらについては予測不可ということみたいです。

今度は医師の数を見ていきます。平成24年から平成26年の2年間では、医師は7937人増えております。そのあと、平成26年から平成28年の2年間では、8275人増えており、平均を取ると1年間に4000人ずつ増えています。内訳ですが、もちろん増えているのは新卒の9000人で、減っているのは高齢の医師の引退等によるものです。単純にこのペースでいくと20年後には8万人医師がふえていることになります。平成28年末の時点での医師数が、319480人ですので、単純計算では、20年後の2038年には40万人近くの医師数になっていると予想されます。多少の調整(医学部定員の減少など)で、予測よりは少ないとは思いますが、当面は増加の一途であることは間違いないです。厚生労働省の予測では2028年~2033年の間に医師の需給が均衡するポイントが出てくると予想されているので、いまのまま医師の人口が増えていくようであれば、20年後の2038年には確実に医師が余り始めていることになります。

この他にも、AI(人工知能)の台頭が予測されています。最近の記事では、AIが眼底写真で糖尿病性網膜症の診断を行ったところ97.5%の制度で正確だった、との記事があります。
別の記事では、CTの読影で85%の正解率を上げた記事や、精神科領域で、85%の精度でリスク算出に成功している事例などがありました。この辺りも、大手資本が本気で取り組んでくれば、一気にコマーシャルベースになってくることが予想されます。

上記の状況をまとめてみると、20年後の日本の医療界に影響する項目としては、

  1.  人口が減る(20%減少)
  2.  税収が減ると思われる(医療福祉の財源も減ると思われる)
  3.  医師数が増える(1.3倍)
  4. AIの台頭で、一部の分野では医師の必要度が減少する

このあたりでしょうか。並べてみると、当たり前と思われる内容が並んでいますが、実際、数字ベースでみてみると、これはかなり深刻なことのように思えます。医師という職業はなくなることはありませんが、現在の立ち位置(ステータスや収入など)を維持することは、ほぼほぼ無理だということは予想されます。これを踏まえて、今後の進み方、生き方を再度検討する必要がありそうです。

興味を持って最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。この他にも、地域での病棟再編成(ベッド数削減)、遠隔医療の台頭、ロボット手術の台頭、再生医療の台頭など、他にも様々な要素がありますが、これらを加味するとさらに厳しい現実が見えてきそうで、恐ろしくなります。20年後は、今とは全く違う世の中、想像もつかない医療の世界が広がっていそうです。

問山 健太郎(といやまこどもクリニック)