2018年02月号 第35話 地方ローカル線の旅

子供の頃より列車やバス、飛行機などいろいろな乗り物が好きであった。車も好きで何回も買い替えたり、遠方へドライブに出かけたりもした。しかし還暦もとうに過ぎ、視力も低下し、反射神経も鈍くなり、ドライブ後の疲れが取れなくなってくると、次第に車に乗る機会も減ってきた。

最近では、時代小説や推理小説を片手に列車に乗り、車窓に移りつく景色を見て時を過ごすのが至福の時と感じるようになってきた。日本の地方ローカル線は、山間部や海沿い、大きな川に沿って、小さな町や村を縫って走行している。乗客も少なく、ゆっくりとしたスピードで自然の中を走行しており、途中で昔のままの懐かしい駅舎に降り立つと、肩からふわりと力が抜け、心も体も癒されていくのが感じられる。

私の地方ローカル線の旅は原則日帰りである。九州も北海道も日帰りである。時刻表を持ち、朝一番の新幹線や飛行機に乗り始発駅に向かう。ほとんど一日中列車に乗ったままで、乗り換え駅で時間があれば知らない街をぶらぶら散策して夜遅く自宅に帰る。心地よい疲れは残るが、明日への活力となる。

ところで、地方ローカル線は大半が赤字路線で廃線の対象となっている。平成30年3月末で北海道の夕張線、中国地方を走る三江線の廃線が決まっている。夕張線も日帰りで乗ってきたが、乗客も少なく、かつて石炭産業で栄えた大きな駅構内はなくなり、単線ホームだけの終着駅であった。三江線は広島県の三次から島根県の江津まで108kmを1両の気動車が江ノ川に沿って走行している。石見地方特有の赤い石洲瓦の家々を車窓に見て、過疎が進み人口増加が見込まれない村や町を見ていると、国の大きな資金援助でもない限り廃線もやむを得ないと思われ、残念でならない。

私の好きなローカル線に熊本県の八代から鹿児島県の隼人まで続く124kmの肥薩線がある。八代から人吉までは球磨川に沿って走行し渓谷美を堪能できる。乗り換え時間を利用して人吉の町を散策し、国宝の青井阿蘇神社に参拝する。人吉からは肥薩線のハイライトである2カ所のスイッチバックとループ線が続く山岳鉄道の魅力を楽しめる。さらに日本三大車窓の1つ霧島連山とえびの高原の大パノラマも堪能することができる。

吉松駅で乗り換え、国の有形文化財でもある木造の嘉例川駅で降りて10分ほどバスに乗ると鹿児島空港に着き、夕方には大阪空港に着く。さすがにこの肥薩線は見所も多く、SL人吉号も走っており外国からの観光客も多い。

まだ乗っていない地方ローカル線はたくさん残っている。特に東北や北海道のローカル線はほとんど乗っていない。もともと運行列車本数が少なく、始発駅まで行く飛行機の本数まで少ないので、いくら時刻表と格闘しても日帰りでは無理なことが多い。これからも時間を見つけて、時には宿泊しても全国のローカル線に乗り続けていきたい。

井上 裕司(井上医院)