2016年07月号 第16話 杞憂
星座のことを習ったのは、いつのことだっただろう。星座を観察する宿題が出て、友達の家に夕方から出かけ、星の出るのを待っていた記憶がある。その友達と同じクラスだったのは小学校の3年生から6年生の4年間だったので、星座を習ったのはその間だったことになる。星座や1等星の名前をいくつも覚えたし、北極星の見つけ方も覚えていたはずだが、今ではあやふやな記憶になっている。夏の大三角形は?と質問されて、デネブ、アルタイル、ベガと、星々を指さしながら話すこともできなくなってしまった。
子どものころはまだ黒白テレビの時代だった。子供向け番組もあったが、テレビに貼り付けになることはなかった。のめりこむようなゲームもなかったし、本好きの父親の影響もあって、本を読んで、その世界に入り込むことが好きだった。ギリシャ神話の本もよく読んだ。太陽、星、星座にかかわる話がいっぱいで、何度も読み返した。
星に関する本として印象に残っているのは、高校生の時に読んだ岩波新書の「宇宙と星」である。私が生まれる以前の、1956年に第1刷が出ているが、私が読んだのは1975年の第30刷のものである。ビッグバンという言葉はまだ使われていなかったが、宇宙が膨張していることや宇宙が1点から始まった可能性がすでに書かれていた。しかし何より、恒星の一生が印象に残った。太陽にも寿命がある。その寿命の来る前には、太陽の巨大化する時が来る。当然ながら、地球の軌道は太陽に呑み込まれてしまう。ずっとずっと未来のはずのことのはずなのに、自分の寿命の届くはずのない未来のことなのに、明日のことのように心配になった。
ところで、「宇宙と星」では、宇宙の誕生は約50億年前と記載されていた。最近では、ビッグバンは約140億年前、太陽系ができたのが約46億年前、地球上に生命の誕生したのは約40億年前、ウイルスは約30億年前に出現したと推定されている。霊長類の登場は6500万年前で、ヒトは600万年前、そしてホモ・サピエンスの起源についてはいろいろ説がある。現在、地球上には3000万種というウイルスが存在するらしい。そのうち、人や動物に感染するものとして知られているのは数千種類に過ぎない。医師の仕事には予防医学もあり、ワクチン接種もそのひとつだ。ワクチンの接種率を上げて、ウイルスを排除しようとしている。麻疹(はしか)については、麻疹ワクチンの95%以上の接種率を維持することを目標にした結果、ようやく日本も麻疹輸出国のレッテルを取り除くことができた。しかし、それにとって代わる、新たなウイルス感染症が次々と登場してくるのではないだろうか。何しろ、未知のウイルスが多すぎる。良い気になっていてはいけない。心配だ。
心配しても仕方のないことまで心配してしまうのは性分である。仕方がない。でも今夜は心配するのを一休みして、久しぶりにだしてきた星座盤を片手に、夜空を眺めてみることにしよう。
草津栗東医師会 理事 白波瀬 亙(白波瀬小児科)