2025年12月号 第124話 「がんばらない」医療
2025年4月より医療法人となった「栗東内科・内視鏡クリニック」で院長を務めております三好薫人と申します。「がんばらない医療」という言葉を掲げると、多くの方が一瞬驚かれます。医療というと、どうしても気合いを入れて立ち向かうもの、我慢や努力が必要なもの、というイメージがあるからかもしれません。しかし私が目指す「がんばらない医療」とは、医療者ががんばらないという意味ではなく、患者さんが必要以上にがんばらずとも受けられる医療のことです。
がん治療はここ数十年で大きく進歩し、手術や抗がん剤治療など多くの選択肢が生まれました。早期に見つけることができれば、身体への負担はさらに少なくなり、治療後の生活も豊かに保つことができます。それでも、早期に見つけるということは決して簡単ではありません。多くの方が「症状がないからまだ大丈夫」と思い、検査を後回しにしてしまいます。気づかないうちに進行してしまい、もっと早くに見つけることができていれば……と後悔される方を、私はこれまでに何度も見てきました。
だからこそ、医療の側が変わらなければならないと感じています。患者さんが「検査を受けるためにがんばらなければならない」という状況を、できる限り取り除きたいのです。胃がん検診は従来のバリウム検査から胃カメラによる検査へと移行しつつありますが、胃カメラと聞くと、多くの人が「苦しい」「怖い」と感じるのではないでしょうか。確かに、従来の胃カメラは努力を強いられる検査でした。しかし技術の進歩によって、今では鼻から入れる細いスコープが主流となり、嘔吐反射も少なく、検査全体の負担は格段に軽減されました。鎮静薬を使えば、さらに楽に検査を受けられるようにもなっています。
とはいえ、鎮静には手間や時間がかかり、一定のリスクも伴います。大切なのは、どの方法がその人にとって最も“がんばらなくて済む”選択なのかを、一緒に考えることだと思っています。検査前にしっかり話をし、不安を少しでも取り除き、その方にとって最適な方法を選ぶ。それは医療側が努力しなければできないことであり、むしろ医療者こそが“がんばる”べき部分なのだと感じています。
医療は怖いもの、つらいもの――。そう思っている方こそ、ぜひ肩の力を抜いてほしいのです。医療は、もっと身近であっていい。具合が悪くなってから慌てて受診するのではなく、生活の中に自然に溶け込むものとして、気軽に相談できる存在であるべきだと私は考えています。そのためには、技術だけでなく、患者さんの心に寄り添う姿勢や、話しかけやすい雰囲気づくりも同じくらい大切です。
医療法人となった今、私たちの役割はこれまで以上に地域に根ざし、安心して暮らせる未来をつくることだと感じています。医療は決して特別な世界にあるものではありません。地域の皆さんの日常に寄り添い、必要なときに必要なだけの医療を、過度な“がんばり”を伴わずに受けていただけるようにすること。その積み重ねが、地域全体の健康を守る力になると信じています。
「がんばらない医療」という言葉には、そんな願いを込めています。がんばらなくていい検査、がんばらなくていい治療、そしてがんばらなくていい医療との向き合い方。それらを実現するために、私たち医療側はこれからも誠実に努力し続けます。どうか皆さまには、気負わず、自然体で、医療をもっと身近に感じていただければと思います。
三好 薫人(栗東内科・内視鏡クリニック)

